他人の意見の「言葉」を追いかけると苦しくなる

デビィさんが再びラヌーバに来た。

といっても、お初の人のために少しだけ解説。
この人はラヌーバの振付家。最初にショーを創った時に全てのアクトの振付を担当した人だ。
シルクドソレイユの面白いところは一度振付がついても、数年おきに振付を見直す。
デビィさんは大体2年周期ぐらいでラヌーバに訪問して、全てのアクトを見なおして帰っていく。

 

過去の訪問記事を読んでもらえれば大体どんな人か・・・わかるかな(笑)

nawatobi-macchan.hatenablog.com

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- 縄跳びアクトにエナジーを加える

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ラヌーバへの訪問はわずか5日間。とても貴重な時間だ。
その間に各アクトごとに1時間ずつぐらい時間をもらって振付の変更をしていく。
縄跳びアクトも貴重な1時間をもらいデビィさんを交えた振付のセッション。
今回の主眼点は表向きの振付の変更ではなくてソリストのエナジーに関することだった。

縄跳びアクトは2人のアーティストがメインで動く。
これだけ広大なステージ上でわずか2人のアーティストが縄跳びを持ち、走り回り、跳び回る。
ゆえにソリスト2人は並じゃないエナジーがステージで求められるのだとデビィさんは言う。

たしかにこの言葉は的を得ている。自分たちの武器は身体と縄跳びだけだ。この武器だけでいかにステージ上のエナジーを高めるかは自分たちの大きな課題である。特にいくつかの場面でエナジーが低下することを指摘をされ、アクト全体を通じエナジーを高めるトレーニングを行った。

 

さて、とはいってもエナジーを高めるとはどういうことだろう。
ってかエナジーってなんだということになる。面白いことにこれについてデビィさん自身も明確な答えを持っておらず、なんかこう・・・グッと来るもの!!みたいな認識だという。言葉で説明こそ出来なくともそこに確かにあるステージ上の力。それがエナジーだ。
そしてデビィさんの凄いところはエナジーをどうやったら高めることが出来るかを瞬時に見抜くことだ。言葉で説明できないことに対してどうやってアプローチするかなんて…羨ましい才能という他にない。

 

★★

 

話を戻そう。
縄跳びアクトのエナジーを高めるためにデビィさんが今回用いた手法は「声」「キャラクター」の2つだった。
少し前に縄跳びアクト改変計画が持ち上がり、この中でキャラクターの変更がされたのは記憶の新しい。

勝手に滲み出してこそ個性。ラヌーバ「なわとびアクト変革計画」 第一弾 – なわとび1本で何でもできるのだ

ここで変更されたキャラクターのアイディアは「侍」や「兵士」で、真剣で剣客同士が斬り合いをしているようなイメージだった。そのためステージ上での表情もできるだけ真剣かつ無表情。
また客席へアピールすることもせずソリスト2人の世界に入っていくようになった。いわば観客は戦いを外から傍観しているような感じだ。

ところが今回の変更では再び方針が変更。
一転して「笑顔」と「観客を巻き込む」に焦点が当てられた。
つまり改変したものを更に変化させ、以前の方針に軸をずらし戻したのだ。

 

デビィさんと一緒に仕事をしていると頻繁にこういう事が起きる。彼女は今この瞬間が全ての人間なのだ。仮に1日前に自分が提案した振付であっても、今まさに目の前でやってる動きにエナジーがなければあっさりと変更してしまう。ひどい時はセッションの前半と後半で言うことが違う。
しかしだからといってデビィさんの仕事に整合性がないというわけではない。あくまでこの人は今、にこだわる。昨日良くても、1時間前に良くても、目の前にある動きが良くなければ気が済まない。この意味ではシッカリとした評価基準がデビィさんの中にあると言えるだろう。その基準を満たさないことに関しては、自分が振付けた動きすらぶっ壊す。別の表現をすれば、デビィさんは自らの基準を満たす動きを生み出すために多方面からアプローチする。

 

もしかすると、振付はアプローチの1つでしか無いのかもしれない。

 

- 各人の意図と、目指す本質はどこにあるのか

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この場所にいると多くの人から指摘や助言を受ける。時に助言は人同士で矛盾していたり。
デビィさんは特別にパワフルかも知れないが、やはり人の言うことは時間と共に変化していく。
去年言うことと今年言うことが違うなんてザラにあることだ。

すると、時に自分たちアーティストは混乱する。
誰の意見を聞けば良いのだろうか、どっちの意見が正しいのだろうかと迷う。
意見を言うならみんなで統一した意見を述べてくれと苛立つかもしれない。

でも苛立った所で何も始まらない。
大切なのは指摘を入れてくれる人に共通する本質を探ることだと思う。
たとえばデビィさんは「声を出せ!」「もっと客席にアピールしろ!!」と指摘を入れてきた。
これは声を出すことや客席へのアピールによってエナジーが高まることを期待したからに他ならない。
先の改変計画では「侍」「兵士」といったイメージを持ちだし、ソリスト同士の緊張感を演出したいと指摘があった。
これもソリスト同士のアイコンタクトや気迫のぶつかり合いが、良いエナジーをステージに広げると考えたアプローチの1つと言えるだろう。

 

つまり表向きは正反対のことに見えても、目的とする場所は同じなのだ。

 

例えば縄跳びアクトのキャラクターについて想像を働かせれば、
改変前は観客にアピールをするあまり、ソリスト同士の掛け合いが見えにくくなっていたのではないだろうか。
この事情を考慮しソリスト同士の気迫のぶつかり合いを高める方向に舵を切ったと考えられる。
その結果としてつい先日のデビィさんの目にはソリスト同士のコネクションは良い感じに見えたのだろう。
だからこそ、次のステップとしてソリスト同士のエナジーを観客に向ける段階へと誘導したのではないだろうか。

 

振り回されていると考えれば、単に振り回わされたままで終わってしまう。
しかし本質として目指すのが「エナジーを高めるためのアプローチと模索」と捉えれば、各人の指摘が1本の道に繋がっていく。

 

★★

 

シルクドソレイユに入った当初、人によって意見が違うことに自分も混乱した。
誰の意見を聞けば良いのかなんて新人アーティストには判断がつかない。
時間を経て少しずつ意図が理解できるようになってきた。
みな目指す先が同じでアプローチが違うだけなんだと。

人によってアプローチが違うのは当たり前で、むしろ多様なアプローチを知っている方が目的地に到達しやすくなる。
なによりここの人は仮に意見が対立したとしても、目的地に到達するという観点から判断して別の意見を受け入れる柔軟性がある。

 

縄跳びアクトのエナジーを高めるアプローチと模索はこれからも続いていく。
ある日突然、再び方向転換をするかもしれない。

その時は想像力を働かせ、
共に良いアクトへと進化させていきたい。

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この記事を書いてる人


縄跳びパフォーマー 縄のまっちゃん
 ※本名:粕尾将一(カスオショウイチ)

全国の学校やイベントで縄跳びをつかったパフォーマンスや出張なわとび教室を行い、子ども達に運動の楽しさを伝え笑顔を引き出す仕事をしています。

【略歴】
全日本チャンピオン、アジアチャンピオン、世界大会6位。2010年よりシルク・ドゥ・ソレイユ常設ショー「La Nouba」に6年間約2500回の長期出演を果たす。