シルクドソレイユアーティストの日常

ここは「天国」か、それとも「監獄」か?知られざるシルクドソレイユの現実

こんな記事を読んだ。

挑戦する人の幸せを願っているからこそデメリットを提示していきたい | らふらく^^ ~ブログで飯を食う~

デメリットを伝える事で相手にとって良いことがあります。それは「落とし穴の場所を知って対策できる事」です。挑戦している際に起こりうる問題を列挙して、「それでも挑戦するの?」と問いかけ、相手がどうしてもやりたいと言ったら「これらの対策をしておいてくださいね」と言うべき
(※)一部抜粋

「シルクドソレイユに入るのが夢です!!」
「どうしたら良いですか??」

An autumn sunset on Montreal
シルクドソレイユ本部のあるモントリオール

シルクドソレイユに入団したいと質問をしてくる人は多い。けどいざに入ると、この仕事はけっこうキツイ。上記の記事にもある通り、挑戦したい人が多いからこそ、挑戦する人の幸せを願っているからこそ、デメリットを提示するのが誠意だと思う。

ということで、
今回はシルクドソレイユのアーティストの苦労、大変さを紹介したい。

将来挑戦する人の健闘を願って。

海外生活、言葉の壁、文化の違い

まず真っ先にぶつかるのが文化の違いと言葉の壁。
ここではいろーーーんな国の人が働いていて、いわば文化のるつぼ。価値観の違いとか意見の相違なんてのは日常茶飯事のこと。

んでもって公用語は英語。全ての仕事をいきなり英語でやることになる。留学経験ありで英語はペラペラです!って人は良いだろう。でもそうじゃない人には大変な壁だ。

国際大会に出場するとか、そんなレベルじゃない。ここでは仕事をするのだ。意思表示し、相手の意思を理解し、何を求められているかを判断する。自分もそうだが、英語がネイティブじゃない同僚だって多くいる。コミュニケーションは手間と根気が必要だ。

さらに言えば海外で一人暮らしをする勇気がいる。
自分は運がいいことに相方が日本人だったので互いに助け合えた。けど多くの場合はポツンと1人、ショーの現場に放り込まれる。周りに日本人は居なくて日本語ももちろん通じない。ホームシックと言葉と文化の違い、いきなり三重の壁が立ちはだかる。

週10回のショー

ショーは週に10回が基本だ。ツアーショーやアリーナショーだと移動が含まれたりしてすこしイレギュラーになるけど、週ベースの回数は同じ。これが常設だと出勤時間もショーの時間も一定。移動がないので週10回のショーが永遠と繰り返される。

殆どの人が経験無いこの回数は過酷を極める。

必然的に起きるのが怪我だ。
ラ・ヌーバの場合だと常時で10人前後のけが人(=アウト)のアーティストが居る。短期間で治る人もいれば、骨折や靭帯損傷などの長期間に渡る人まで様々。中には1年以上もショーを離れるアーティストも。単にハイレベルなアクロバットをするからだけじゃない、繰り返しによる負担の蓄積は想像を超える。

競技選手時代、自分も結構追い込んで練習をしてきたほうだと思う。でも縄跳び起因の怪我はしなかった。どれだけ跳んでも、縄跳びで怪我をすることはなかった。いまちょうど膝を痛めているが、人生において縄跳びで怪我をしたのは初めてである。

暇である

不謹慎かもしれないが事実だ。この仕事は暇な時間が多い。
常設の場合はショーが始まるのは18時か19時。ショーコールと呼ばれる出勤時間は1時間前と決まっている。すると17時まではまるっきり時間が空く。アクトによっては週に1-2度の合同練習があるが、自分たちのようなソリスト、キャラクターはトレーニングすら無い。

暇で、好きな事ができて、何が文句あるんだ??と怒られそうだが…。

時間がありすぎるのも問題なのだ。

最初に上げたように文化の壁や言葉の壁があるので遊びに行くのも簡単じゃない。インターネットには繋がるが日本のテレビは見れない。現地のテレビをつけても英語で何を言ってるかわからない。何もすることがない暇な時間というのは想像以上にシンドイものだ。

自分は暇で仕方ない時はドライブをして時間を潰していた。
元からアウトドア派でもなければ、時間を忘れられるような趣味もない。スポーツ観戦とか、ビーチとか、どれもこれもピンと来ない。

結果、目的地もなくドライブすることぐらいしか思い浮かばなかった。

人によっては楽園にも監獄なる

友達も居ない、言葉も通じない、そう簡単に家にも帰れない、、、ナイナイ尽くして監獄のようにすら聞こえる。

でも個人の感じ方や性格によって大きく変わる。たとえば好きな事を24時間365日考えているのが好きなタイプだとすれば、周囲の雑踏を気にせずガッツリ打ち込める。また時間に余裕が有るため大学に通ったり語学を学んだり、融通が効きやすいのも事実だ。アーティストの中には芸術分野で修士課程修了までした人も居て、時間の使い方は千差万別。

縄跳びだけに向き合う時間が取れたことに、自分は大変感謝している。
ステージの経験値も膨らみ、多視点から縄跳びを見ることができるようにもなった。

ここが監獄になるか、天国になるか、それはアーティスト次第。
将来挑戦される方への健闘を祈って。