シルクドソレイユが教えてくれた大切なコト

シルクドソレイユがアーティストに『限界ギリギリ』を要求しない理由

88/365 - He knows what to do...
Photo By Ramiro Ramirez

先日、ラヌーバの仲間が快挙を成し遂げました。

空中ブランコの4回宙返り。これはシルクドソレイユの歴史上初の快挙です。普段ショーでやってるのは3回転。それより更に1回転多いというのは、世界的に見ても最高難度の技。

技が決まった瞬間にシアター内がどよめき、アーティスト達から歓声が上がりました。この大技を成功させた2人には沢山の連絡や贈り物が届いたといいます。

Primero dar las gracias a dios y mi virgen de la tirana 03/27/2015 ..hoy es un día de ésos que jamás se olvidan en la vida hoy cumplo uno de mis sueño agarramos mi primer cuádruple más feliz y agradecido no puedo estar quiero dar las gracias a mi cacher Rob Dawson por llevar mi full triple y ahora mis 4 vueltas gracias a todas las personas que siempre confiaron en mi lo dedico a mi familia los Gonzalez Ivo Silva Jr Lucian Balsanulfo Renato Fernandes Miguel Trejo Vargas gracias Bruno Vargas zone Zane Frazer Daniel Ponce Justin Chodkowski Martin Rios Rigoberto Cardenas Cardenas Jaby González Sáez Alexis Gonzalez Palma Owen Omar Gonzalez Marlon Joel Caceres Gonzalez Peperoni Caceres Gaston Maluenda Maria Angela Gonzalez Rozas Pedro Javi Gonzales Daise Oliver Liborio Gonzalez Elayne Henriquez Rojas Patricio Alexis Henríquez Rojas Fernando Ventura Gonsales Potenza Paul Maluenda Ri Galvis

Posted by Jonathan Jesus Gonzalez Rozas on 2015年3月27日

ではこの4回宙返をショーでやるでしょうか?答えはNoです。なぜならこの技は「限界ギリギリ」だから。

いつも大技を決めていると思われがちなシルクドソレイユですが、実は限界ギリギリの技はやっていません。むしろ会社としてそのような技をやらせないように制御しているのです。

なぜ限界ギリギリを見せない?

観客の立場であれば「極限の技が見たい!」「世界で唯一の技が見たい!」という気持ちも理解できます。しかしこれは出演する側、マネジメントする側としてはリスクが高すぎるんです。

極限の技というのはそれだけ危険が伴い、身体への負担も大きい。一歩間違えれば大怪我や生命の危険に関わることを、年間で500回近くもできるでしょうか。

また限界ギリギリとは不安定を意味します。一か八か、成功率50%。加えて失敗による怪我のリスクを負うことになる。ここに、どれほどの精神的な消耗があるかは計り知れません。これではいくらタフなアーティストでも数週間で体力も精神も消耗しきってしまうことでしょう。

例えるなら連日徹夜を続けるようなものです。睡眠時間を削って働らかせれば、それだけ労働力を捻出できます。昨今話題のブラック企業というやつですね。

こうした限界ギリギリで働かされた人々はどうなったか、みなさんもご存知のはずです。

ショービジネスとして成り立たせるためのバランス

極限への挑戦、限界の突破・・・こうした言葉は耳触りがいいですが、非常に危険でもあります。

もっとスゴイことを、もっともっと…と、求め続けた先にあるのは消耗戦。長年トレーニングを積み上げてきたアーティストを、わずか数年で消費してしまうのは実に勿体ないことです。

シルクドソレイユはこれをよく理解しています。限界ギリギリを続ければ早々にアーティストを消耗してしまう。かと言ってありふれたショーでは観客に飽きられてしまう。

いかに消耗戦をせずショーを継続できるか。この両者の絶妙なバランスを維持していることこそ、シルクドソレイユの真の強さなのだと思います。

アーティストという貴重なリソース

自分も先日怪我で長期離脱をしましたが、他にも怪我でショーを休むアーティストは後を絶ちません。限界ギリギリでなくともサーカスには怪我がつきものなんです。

ですが、怪我をしたアーティストをシルクドソレイユはよほどのことがない限り解雇しません。復帰に数年必要な場合でも、再起不能でない限り全面的にショーに戻るための支援をしてくれるのです。

よく、この仕事は怪我をしたら終わり…と思われがちですが、そんなことはありません。むしろ怪我をしたアーティストをすぐ解雇していたら、シルクドソレイユは立ち行かなくなっていたことでしょう。

なぜなら人材の確保と育成には莫大な費用が掛かるから。ひとりのアーティストをショーに迎え入れるため、トレーニングをし、コーチを付け、衣装の採寸・作成をし、リハーサルをして…。もちろんアーティストをはじめ関係者全てに給料も支払わなければいけません。どれもこれも直接の利益を生み出さない経費になってしまいます。

だからこそ、怪我しても復帰してくれればOK。新しい人材を確保するよりは経済的。長い目で見れば、同じアーティストが長く出演する方が遥かに採算性が良いのです。

この意味で、ショーで限界ギリギリの技をやるのはかえって不利益を被ると言えます。

まとめ

粕尾将一の代名詞は多回旋*1でした。6重跳び…なんて技をやってたこともあります。

関連リンク:6重跳び 6under within one jump 粕尾将一 – YouTube

たまに「ショーでも6重とびやるの!?」と聞かれますが、もちろんやりません。それは自分の身体が消耗品であることに気付いたからです。シルクドソレイユもそんな限界ギリギリの大技は求めていません。

どこが限界ギリギリかを見極めるのは難しい。

しかしショーの度に心と身体が傷むようであれば、もう少しハードルを下げてもいいかな?と考えるようになりました。

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*1:一回のジャンプで二回以上の縄を回す技のこと