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業界常識の壁をぶち破れ!「カプリオール」がシルクドソレイユの門前払いをこじ開けた

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Photo by Xenja Santarelli

縄跳び・ダブルダッチ関係者にとって、2015年5月25日は大きな意味のある1日でした。業界内では超有名プロダブルダッチチームの「カプリオール」。そのリーダーNOBUさんが、かの有名な情熱大陸に出演されたのです。

ダブルダッチチーム|カプリオール|公式HP|CAPLIORE
NOBU(プロダブルダッチ アーティスト): 情熱大陸

番組で取り上げられたのは、プロとして生きるカプリオールの等身大の現実。たとえ「世界チャンピオン」「ギネス世界記録達成者」でも、決して現実は甘くありません。

そして2015年ミラノ万博で公演中のシルクドソレイユの特別ショー「Allavita」。カプリオールはダブルダッチアーティストとして出演しています。

【0.30秒ぐらいからカプリオールが登場】

いまや飛ぶ鳥を落とす勢いのカプリオール。でもホンの5年前まで、ダブルダッチはシルクドソレイユに門前払いされていたのです。

「縄跳び」のサーカス界における常識

サーカスでは古くから縄跳びを使った演技が行われていました。シルクドソレイユのショーだと、Dralionの縄跳びアクトが伝統的なタイプですね。

Skipping Ropes. Cirque du Soleil, Dralion – YouTube

伝統的な縄跳びアクトに専門家は必要ありません。なぜなら大縄の中でアクロバットをするだけだから。基礎的なアクロバット技術があれば誰でも出来る。縄回しも誰でも良い。順番にアクロバットをやらない「脇役」がやればいい。

こうした縄跳びアクトがの捉えられ方は、長年サーカス界で根付いてきました。ところが、この伝統に一石を投じたのがシルクドソレイユのQuidamです。初めて縄跳びの専門家がアーティストとして参加したのです。

Quidam Jump Ropes – YouTube

ところがQuidamで参加したのは「単縄(一人とび)」のアーティストでした。ダブルダッチの専門家は参加していません。これがダブルダッチにとって不遇の始りだったのです。

単縄は専門アーティストを雇うだけの価値がある、でもダブルダッチは教えれば誰でも出来る。こうした常識がシルクドソレイユの中ではびこってしまいました。この常識のせいで、ダブルダッチの専門家はオーディションで門前払いされ続けたのです。

カプリオールがシルクドソレイユの常識を打ち破った

Michael Jacksonのアリーナショーに「男子新体操集団演技」が抜擢されたのは記憶に新しいですよね。

この大抜擢以降、常設のMichael JacksonショーやVarekaiにも採用され、シルクドソレイユ内で空前の男子新体操ブームが巻起こっています。しかし彼らも初めから注目されていたわけではありません。

どうしても技術で及ばない体操競技やタンブリングに押され、男子新体操出身選手の活躍の場は多くありませんでした。ところが、その驚異的なシンクロと独特な演技構成が、技術一辺倒だったシルクドソレイユの常識をぶち破ったのです。

■参考記事:男子新体操はなぜシルクドソレイユから注目されたか?

同じことがダブルダッチにも起こりました。シルクドソレイユにはびこっていた「ダブルダッチなら誰でも出来る」という常識の壁を、カプリオールがぶち壊したのです。

業界常識が実力よりも高い壁になる

今年に入って「キャスティング*1がダブルダッチのアーティストを探している」と内部の知人から聞きました。これは5年間で初めてのことです。

もしカプリオールが常識の壁をぶち破らなければ、今後も単縄アーティストばかりが採用される時代が続いたことでしょう。それほどに業界常識の壁を取り除くのは難しく、根気と実力の両輪が必要なことです。

世界にはまだまだ日の目を見ていないパフォーマンスが沢山あるはず。たとえエンターテイメント性が高く、世界的な広がりを見せていても業界内で知られていない、前例が無いという理由だけでチャンスが失われている可能性があります。

男子新体操しかり、ダブルダッチしかり。

いまはシルクドソレイユでは新しいアイディアを求めています。業界常識の壁に小さな風穴さえ空けられれば、種目の実力次第では大きなパイプへと変貌させることが可能なのです。

*1:シルクドソレイユのスカウト集団